八木重吉が残した「雲」という詩がある
雨の音が聞こえる
雨が降ってゐたのだ
あの音のやうにそつと世のためにはたらいてゐよう
雨があがるやうにしづかに死んでゆかう
「私の詩(私の詩をよんでくださる方へささぐ)」という未発表詩のなかでは、自分の詩は「必ずひとつひとつ十字架を背負ふてゐる」と書かれている。
8月9日という日は人類が背負う十字架を彷彿とさせる日だ。
東京を火の海に変えた東京大空襲の爪痕は銀座駅構内に残されていた。
銀座駅の真上に、500キロの爆弾が落とされ記録では539人が亡くなった。
高さ約3メートル、横幅5メートルの大穴が補強された跡が見つかり、空襲で出来た穴をふさいだ可能性があるという。
そんな爪痕も今は改修工事によって綺麗に整備されてしまっているらしいが。
「雨があがるやうにしづかに死んでいく」。
雨が降っているときには話題に上がるが、ひとたび止んでしまえば話題に上がることはない。
夏の嵐ともいえるような雷雨も止んでしまえばそこで終わり。
人間は二度死ぬらしいが、松田優作曰くそれは忘れられた時らしい。
日本では今なお「黒い雨」が誰かの心に降っている。
忘れてはいけない歴史も存在していることを自覚しなければいけないのかもしれない。